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咢が王様なパラレル小説です。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12


 目の前に積み上げられたハンバーガーの山が凄まじい勢いで消費されていくのを、亜紀人は唖然として見つめていた。
「イッキお前なぁ、ちったー遠慮しろよ!」
「うるへー、おとついリカ姉と喧嘩してからろくに飯食わせてもらってねーんだよ」
 夜明けまで続いた探索は、仏茶の『お腹空いた』の一言で一旦打ち切りとなった。付き合ってくれたお礼にと亜紀人が早朝のファーストフード店で朝食を奢ると申し出たところ、イッキはトレイに乗り切らないほどのハンバーガーを注文したのである。サイドメニューは一切無し。実に豪気な事だ。
「悪いなー、カネ大丈夫なのか?」
「うん、それは平気だよ」
 単価が知れているので、それはたいした事ではない。それより、ろくに租借する様子もなくイッキがハンバーガーを胃に押し込んでいる様は、見ていて心配になる。二日続けてハンバーガーを食べるのは体に良くないと考えた亜紀人は、ちびちびとコーンサラダを突ついていた。そもそも、王のことが気がかりで食欲は全く無い。
「あ、あの、そんなに急いで食べたら体に…」
 思い切って向かいの席のイッキに話し掛けてみると、デコピンが飛んできた。
「痛いッ!?」
 本気で痛い。火花が散ったかと思った。目尻に、涙が浮かぶ。
「俺様のする事に口出ししてんじゃねーよ下僕が。それよりさっさと食いやがれ、行くぞ」
「い、行くってどこに…」
「オメーの片割れがまだ、見つかってねーだろーが。おい、ブタ二匹とニット!モタモタしてんじぇねぇ!」
「へーへー」
「ちょっと待ってよ、まだデザートが…」
 言うが早いか、イッキは最後の一個を口に押しこみ、リスの頬袋のように顔をパンパンにしたまま、立ち上がった。
「あ…ありがと、イッキ君」
ぶっきらぼうで乱暴で自分勝手で口は悪いけど、そんなにイヤな子じゃないんだ、やっぱり)
 少しアギトに似ているかもしれないと、亜紀人は思った。二人が再会したらどんなエキサイティングな事になるか、興味はある。
「おーし、じゃあ行くか」
「ゴメンねカズ君、みんな」
 空いたトレイを片付けていると、最近楽しみに見ているアニメのOPテーマが流れた。亜紀人の携帯だ。
 まだ携帯にはMr.SANOとアパートの大家さん、近所のお店数件しか登録されていない。知らない番号が表示されている。亜紀人は慌てて出た。
「もしもし?」
『おい、俺。てめー何処にいやがんだ?』
 自分に良く似た声、イッキのような尊大な口調。亜紀人は絶叫した。そうだ、緊急時のためにこちらの番号は冷蔵庫に付箋で貼っておいたのだ。
「おっ、王!!君こそ何やってんだよ!今どこなの、無事なの!?」
 王って言ったぜ、ナニそれあだ名?ちょっと痛いね、と、後ろで捜索隊員達の声がする。
『夜中に目が覚めたんでブラブラしてたんだよ、帰ったらお前が居ないしよ』
「なんで起こしてくれなかったの!心配して、随分探したんだよ!みんなも…」
『は?アホ面で寝てたからだよ、つーかお前こそ勝手に探してギャンギャン吠えてんじゃねーよ』
 亜紀人の中で、何かがプツッと切れた音がした。
「馬鹿!!」


 通話を切ると、亜紀人は少年達の方へ向き直り、泣きそうになるのを堪えて、深々と頭を下げた。
「き、聞こえてたと思うけど…ごめんなさい!」
「いや、よかったじゃん」
「そうだね、安心したよ」
「ま、一人でウロウロしてたからって、どーにかなりそーなタマじゃなかったけどな」
「ホントに、ゴメン…」
 みんな笑っていたが、亜紀人は、申し訳なさで顔を上げられなかった。
 鼻をほじりながら、一人無言だったイッキが呟く。
「…食いたりねー」
 亜紀人の顔が、ぱっと輝く。
「ボクも、お腹すいちゃった!」


(安達さん、中山さん…ボクね、マイペースな王様のおかげで、友達ができるかもしれないよ)