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咢が王様なパラレル小説です。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11


「重くない?」
「ぜんぜん平気だよ」
 亜紀人は、仏茶と名乗った巨漢の少年の肩に乗せられていた。小さい子供のようで恥ずかしかったが、ひとりA・Tを履いていない亜紀人が他の四人のスピードについていける筈もなく、ここは大人しく好意に甘える事にした。
 普段よりずっと高い目線から見る夜明け前の風景は、いつもとまるで違って見える。初めて訪れた国の町並みのようだった。きついカーブや段差で浅黒い肌が弾む度に、亜紀人の体も大きく揺れる。亜紀人は、最後まで上達しなかった乗馬の稽古を思い出していた。
(当たり前だけど馬よりずっと乗り心地がいい…言葉も通じるし。なんて思ってゴメンね、仏茶くん)
「しかし、人の家に泊まりに来て勝手に抜け出すとか、マイペースにも程がねぇ?」
 王について、本当の事を話すわけにもいかないので、彼らにはアギトは自分の遠い親戚で、中学にもなって一人で電車に乗った事もないような(これは嘘ではないし)世間知らずのボンボンなので、夏休みの間、社会勉強を兼ねて東京の亜紀人のところに遊びに来ているのだと説明した。それだって十分うそ臭いというか痛い設定ではあるが、一国の王が逃げ出したと言うよりはまだ信憑性があるだろう。
「う、うん。ボクも会ったの初めてなんだ。昨日来たばっかりで、まだあんまり話もできてないし…」
 そうだ、昨夜は亜紀人の話ばかりで、彼について何も聞く事はできなかった。
「あんな高そうなA・T使ってんだもんな、オボッチャマ納得だよ」
「あれって、やっぱりいいヤツなの?」
「だって、見た事ねぇ型だったぜ?」
「アレは特注だね」
「オタクの豚二匹がそう言うんだから間違いない」
「誰がオタクだっつーの、てか、豚はてめーだろっ!」
「ふふ…」
 同年代の『男の子』と、こんなに気安く話すのは初めてかもしれない。Mr.SANOは亜紀人の勉強のために多くの文化人を呼んでくれたが、みな、亜紀人よりずっと年上だった。
(男の子ってこんなノリなんだ、やっぱり中山さん達とは違うなァ)
 それにしても。
 他の三人は亜紀人に色々話しかけてくれるのだが、イッキ、と呼ばれているリーダー格の少年は、亜紀人の事など全く意に介さない様子で、コースを外れてみたり、宙返りしてみたりと、まるで一人で居るかのように気ままにふるまっている。
(ボクの事、うっとーしーって思ってるのかな。ホントは、王様と走りたかったんだよね…)
 だが、亜紀人は彼から目を離す事ができなかった。亜紀人はA・Tに関しては全くの素人だが、彼の走る姿はとても魅力的に見えた。技術的には、仏茶や葛馬の方が上のようだが、不思議なくらい惹き付けられる。
(なんか、風が、ふわーって吹き上がってくるカンジだよね)


 彼が惨敗したというアギトは、一体どんな風に走るのだろう。