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咢が王様なパラレル小説です。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17


「バトル?」
「そ、隣町の中学の暴風族と」
 A・Tを始めたライダーのうち何割かは、健全なスポーツではなく危険な遊びの方へ傾倒してしまう、特に無鉄砲な子供、中高生は。実際、生で見た事はないが、中にはエキサイトして大怪我を負う者も居ると聞く。自分の主君にそんな危ない事をさせるわけにはいかない。
 表情を強張らせる亜紀人に向かって、話を持ち出した葛馬は慌てて手を振ってみせた。
「いやいやいや、お前が想像してるみてーなハードなのじゃないから。一番簡単な試合形式だよ、ダッシュ
「決めた区間のスピードを競い合う、ま、早く言えば徒競争だよね」
「そーそー、だから安心して…いてぇっ!?」
「痛!!」
 笑顔で語る仏茶と葛馬の後ろに回り込んだ樹が、二人の頭を掴んで思いっきり衝突させた。ゴン、という鈍い音と同時に火花が散って、亜紀人は思わず目を瞑る。
「何するんだよ、カラス!」
「イッキ、てっめーなぁ!いてて…」
「チビに余計な事吹き込むな、バトルは命を賭けた真剣勝負だっつーの。負けた者は、切腹じゃ」
「…だったら、君が一番危ないんだけどね」
「あ?」
「とにかく、アギトにも話しといてくれよ」
 今日は雨で、練習は中止だ。小烏丸のメンバーは、葛馬の部屋に集まってだらだらと喋っていた。走れないなら意味が無いと言って、アギトは欠席である。
「オーダー的には、デブ、ハゲ、デブ、チビ、俺様。こんなモンかのう」
「わっかんねーよ!」
「じゃあ、明日からはバトルを想定した練習をしよう。晴れるといいけどね」


 二十二時過ぎにアパートの部屋に帰ると、アギトは菓子を食べながらテレビを見ていた。画面に映っているのは若手のお笑い芸人で、アギトは全くの無表情。
「…ただいま」
「ん、」
「なに見てるの?面白いの?」
「わかんね」
 手を洗って、アギトの隣にちょこんと座ると、亜紀人も一緒にテレビを見始める。
「…つまんない、ですね」
「ああ」
「…他に、見たいものないの?」
「ねェな」
「…そう…」
 キャラメル味のポップコーンを御相伴させてもらいながら、亜紀人は今日の会議の報告を始めた。
「あの、小烏丸がね、バトルをやるんだって」
「………」
「それで、イッキ君がリーダーだから、大将戦なんだけど、アギトにはその前を走ってもらいたいって。来週の始め」
「…お前は?」
「え?」
「お前は、出ねぇの?」
「だ、だって僕は、まだみんなと比べたら全然、走れないし…バトルは五対五でやるものだし…」
「………」
 不機嫌そうにテレビの電源を切り、食べかけのポップコーンやジュースを放置して、アギトは立ち上がり、玄関に向かった。
「ねぇ、どこ行くの!?」
「雨、あがってンだろ?走ってくる」
「じゃあ、僕も一緒に、」
「来んな、邪魔だ」
「そんな事言ったってね、僕は君の護衛も仕事のうちで、」
「あんな素人集団のバトルにも出られねーような奴が、俺の護衛?フザケロ」
「…っ、」
 何も言い返せずに俯く亜紀人に、アギトはこう言い放った。
「ま、お前は今はゴミ補欠でもいいんだろうな、俺が抜けた後、俺の代わりをすればいいだけだしな」
「そんな事言うなよっ!!」
 珍しく亜紀人が荒っぽい声を出したので、アギトは驚いたようだった。
「あ、ごめんなさい…」
「…いや、」
 悪かったなと聞こえないくらいの小さな声でアギトは謝罪し、亜紀人は唇を噛んだ。この人は自分が馬鹿にされた事を怒ったと思っているのだろう、そうじゃないのに。


 色んな事が、噛み合ない。