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咢が王様なパラレル小説です。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10


「…イッキ君、何かおかしくないかい?」
「あ?何だよデブ」
「いや、その、彼さ。あまりにもさっきまでと雰囲気が違い過ぎて…」
「そーいや、靴もフツーんだしな」
「服も、違うくね?」
 イッキ君と呼ばれた少年は、亜紀人の頬を片手で掴んだまま、ぐっと顔を近づけてきた。亜紀人は何度も瞬きをする。漆黒の髪が四方にツンツン立ち上がった様は、まるで烏の羽を頭に突き刺しているようだ。暗がりの中、鋭い目が光る。
「…お前、さっきの生意気なクソガキじゃ、ねーんか?」
 亜紀人は、ひょっとこのように顔を歪めたまま、何度も頷いた。何の事だかわからないが、誰かと勘違いされている事は、確実だ。
「マジか?」
 頷く。
「んー…」
 空いた方の手でばりばりと頭を掻くと、少年は亜紀人を軽く突き飛ばすように手を離した。
「きゃんっ!」
「おいイッキ、乱暴すんなって、人違いだったんだろ?」
「大丈夫かい、君?」
「う、うん…」
 アスファルトの上に尻餅をついたまま、黒髪の少年を見上げる。よく見ると、中学生くらいだ。平均よりずっと小柄に造られている亜紀人と比べると、無論しっかりした体格をしているが、表情はまだ幼い。
「ホラ、立てよ」
 季節感皆無のニットの帽子を深く被った少年が、手を差し出す。後ろにもう二人、背が低くて太めなのと、背が高くて太めなのと。四人とも、足には巷で人気のA・Tを履いている。アギトが使っていたものと比べると安物だろうが、子供らしいごちゃごちゃした装飾が施されていて、なかなかカッコ良かった。
「悪かったなぁ、でも、お前小学生だろ?こんな時間にウロついてんじゃねーよ」
「変質者が出るぞ、変質者が」
「ち…違うよ、子供じゃないもん」
「幾つよ?」
「じゅ…十五」
「マジか。タメかよ」
「じゃーさっきのガキも案外、おない歳くらいかもな」
 ニット帽の少年の言葉に、亜紀人はハッとした。
「ね…ねぇ、もしかしてボクの事、A・T履いた子と間違えたの?」
「?ああ、そうだぜ」
「俺様の縄張りで好き勝手してやがったからな。制裁を…」
「競争してボロ負けしたんだよ」
「ガキだと思って手加減したんだよ!」
「似てた?ボクに?」
「似てた。っつーか、ほぼ同じだよな、背格好といい、その眼帯…」
「どっちに行った!?ボク、その子探してるの!」
「な、何だァ?」
 うーんと腕組みすると、黒髪の少年はフンと鼻を鳴らし、偉そうにふんぞり返って、こう宣言した。
「よっしゃ、お前、俺様の下僕になれ。あのガキにゃぁ、借りを返さなきゃならねぇかんな」
「一緒に探してあげるよ」
「ホント!?」
 亜紀人は、両手を叩いて飛び上がった。一人じゃないなんて、こんな心強い事はない。
「お前、名前なんてーんだ?」


「亜紀人!」
 自由の証でもある、大切な名前ー誰かに名乗ったのは、これが初めてだった。